作品解説
近年、コロナ禍による運動不足や環境保全の面から自転車の需要は拡大している。一方で日本の道路空間において自転車の立場は非常に低く、時折「交通弱者」とも揶揄されることがある。そこで自転車を主体とした道路空間の提案を行うことで、その立場の向上を図ることを目的として研究を行った。その結果、自転車が関与する社会問題の改善に有効な道路パターンや、自転車を主体とした道路空間に必要な要素が明らかになった。
本研究では先行研究の調査や自転車レーンを含む道路空間の事例調査、行政による道路の分類について調査を行い、そこから自転車目線での道路空間のパターン分けと道路空間の提案を行った。道路空間は「完全一体型」「路側帯独立型」「自転車レーン独立型」「自転車レーン排除型」の4つのパターンに分類した。その結果、住宅地域に多くみられる「完全一体型」及び「路側帯独立型」では、現状では、交通量の少なさや道路の利用者の安全意識に依存していること、自転車が関与する交通事故の発生割合が市街地において多いことがわかった。このことから、次に行った道路空間の提案では、主に「完全一体型」「路側帯独立型」について提案することとした。道路空間の提案では、主にshared apaceの考え方を用いて自動車の走行速度を減少させることに着目して提案を行った。「完全一体型」のパターンでは、路側帯を片側にのみ設置することで視覚的に道路利用者の分離を行い、安全性・快適性の向上を図った。「路側帯独立型」では、路側帯と同じ材質を車道まで拡張し、拡張したスペースを自転車レーンとして確保することによって視覚的に車道と歩道に繋がりを持たせ、また歩道という違和感を車道に取り入れることで自動車ドライバーの注意力の向上を図った。本研究の結論として、道路空間のパターン分けから「自転車が関与する社会問題の改善に有効な道路パターン」、道路空間の提案から「自転車を主体とした道路空間の提案に必要な要素」の2点を明らかにした。このことから、自転車を主体として道路空間の提案を行うことで、道路空間の今後の発展に一つの新たな知見を与えることができたと考える。